日本人には古くから
「神器(じんぎ)は皇位と共にあり」「皇位は神器と共にあり」という考え方がある。勿論、わが国の長い歴史の中で異例・変則の場面が皆無だったのではない。ごく稀(まれ)ににそういう場面があっても、基本的に上記の考え方が覆(くつがえ)ることなく現代に至っているのが、事実だ。それを踏まえて、この度の御代(みよ)替わりにおける神器の継承を、どう理解するか。混乱があるといけないので、念の為に整理しておく。まず、今上(きんじょう)陛下は4月30日の午後12時まで皇位にあられる。だから、神器はその瞬間まで今上陛下のもとにある。改めて言うまでもないが、神器の中身は以下の通り。(1‐1)伊勢の神宮のご神体(しんたい)の神鏡(1‐2)そのご分身で宮中の賢所(かしこどころ)のご神体の宝鏡(2‐1)熱田(あつた)神宮のご神体の神剣(2‐2)そのご分身で御所(ごしょ)の“剣璽(けんじ)の間(ま)”に奉安されている宝剣(3)同じく剣璽の間に奉安されている神璽以上の3種類、5体だ。皇位の継承に伴う儀式である「剣璽等承継の儀」(国事行為)では、(2‐2)と(3)だけが実際にご動座になる。しかし、だからと言って、それら“だけ”を継承されるのでは、勿論ない。3月6日の予算委員会での安倍首相の答弁では、それらだけが受け継がれるかのような印象を与える。だが、そうではない。剣璽等承継の儀と同じ時刻には(1‐2)を祀(まつ)る賢所で、皇室行事として「賢所の儀」が執り行われる。これらは、上記“全て”の神器を新天皇が恙(つつが)無く継承された事実を、改めて「表示」する為に“象徴的”に行われる儀式だ。従って(1‐1)と(2‐1)も、当然ながら継承の対象から外れていない。それらの神器の継承が実際になされるのは、いつか。皇太子殿下が即位される5月1日午前0時と“同じ瞬間”だ。神器は皇位と共にありという、日本人の伝統的信念に照らせば、当然そう理解できる。だが法律上の根拠はあるか。皇室経済法の規定が根拠になる。「皇位とともに伝わるべき由緒ある物は、皇嗣(こうし)が、皇位とともに、これを受ける」(7条)この条文にある「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」の中心的存在は、神器に他ならない。ここに「皇位と“ともに”」とあるのがポイント。「ともに」と規定されている以上、皇位が新天皇に移りながら、神器だけは“遅れて”移るような事態は、(外形上はともあれ)想定できない。これによって、皇位を継承された瞬間、神器も受け継がれることになる。昭和から平成への御代替わりの時も、昭和天皇が崩御された昭和64年1月7日午前6時33分に今上陛下が皇位を受け継がれ、同じ瞬間に神器も継承された。その事実を表示する為に、3時間余り後の午前10時から、剣璽等承継承の儀と賢所の儀が行われた。その間に「空位(くうい)」が生じた訳でも、神器が先帝のもとに“留められた”訳でもない(!)。「事実」と「儀礼」の関係について、
くれぐれも誤解をしてはならない。